表現財のパッケージャー:テックデザインが主催する、新しい働き方を模索・議論するセミナー... 続きを読む >>
第2回のEAT Cafeはインテリアデザインから映像制作、WEB制作まで手がける『有限会社バッタ☆ネイション』の岩沢卓(イワサワ タカシ)さんをゲストにお招きしておこなわれた。オフィス空間デザインのプランニングや音楽ユニットを組むなど、岩沢さん自身の活動も幅広い。そんな彼が所属する『バッタ☆ネイション』の信条はメディアの距離感をデザインしていくことにある。ここ数年で大きく変動しているネットビジネスをその身で体感してきた岩沢さんに、番組づくりから視聴者のこころの変化など、WEBを取り巻く環境についてお話をうかがった。
有限会社バッタ☆ネイション:http://www.web-conet.com/
番組のつくりかたに変化を与えたのは“ネットによる生中継”の存在が大きい。WEBの制作ディレクションを手がける岩沢卓さんは、制作のフローがここ数年で変わっていくのをじかに感じてきた。
「Ustreamやニコニコ生放送を代表とするネット生中継の登場によって変わったのは、配信が終わった瞬間、完全パッケージメディアになるということです。いままでなら企画立案して撮影の日程を決めて、それが終わったら編集して、コピー、販売配布という流れだったんですが、撮影と編集と納品が一緒になった。もうひとつは番組の流れに、視聴者がTwitterやコメント機能などでリアルタイムで参加できることです。これによってつくり手側が偉くて、見る側、聞く側がそれに従っているという関係から、双方向性を持つものになりました。なにより大きいのはこの部分で、コミュニケーションの距離感が変化したといえるでしょう。ネット生中継の出現によって企画立案の次に、撮影と配信に加えてユーザーとのコミュニケーションを取る、ということが同時に起こるようになりました」
ネットを取り巻くビジネス環境もわずか数年でがらりと違うものになってしまったそうだ。
岩沢卓さん
「もともと番組制作というのは人や設備がかかるもので、それなりの規模を持つプロダクションが請け負っていたんです。ところがUstreamやニコニコ動画、Youtubeなどのいわゆるインターネット動画共有サービスの出現によってそれが大きく変わりました。動画ファイルを無料でアップロードできる仕組みがつくられたおかげで、民製器で個人で手軽に番組を制作できるようになった。ぼくたちも新しいこと、日本初、などをキーワードに2010年ごろ、某ブランドの新製品発表会をモナコのコンベンションセンターから日本人向けに中継したり、あるタレントさんの自宅での対談をWeb中継したりしていました」
2012年に入ってからは、連動企画としてWebプロモーションしながらUstreamを味付けで使う場合や、より大きなサイズで企画を出してくる場合が多くなってきたという。
「今年ぐらいからニコニコ生放送、Ustream、Youtubeの3波で同時に流そう、という規模の大きな企画が出てきました。そうなると大手の広告代理店と映像機器屋がしっかりと入り込んでくる。技術フェイズも一段上がってしまい、結局、それなりの規模や技術を必要とする、もとのオールドスタイルに戻ってしまったわけです」
であるなら、今後はさらにソーシャルな部分とのノリ付けをコミュニケーションでデザインしていくことが自分たちのような立場の仕事になっていくだろうと岩沢さんは語る。番組制作において、新たに出現したインタラクティビティの動きは、今後こうしたビジネスにおいて重要な位置を占めていきそうだ。
配信側の変化により、ユーザインターフェースの環境も変わっていくことになる。ビデオ・オン・デマンドが広がることで、モニターがより固有的なものになるという。「オン・デマンドになればなるほど、より個人的でニアフィールドなモニターに移っていくでしょうね。たとえば数人でなにかを見るには全員の承認がいる。大きなテレビに映すものをどれにするか、ということをみんなで決めなければいけない。そのコミュニケーションを省くことができるようになるのはひとつの事実です」こうした動きを危惧する意見も多いなか、岩沢さんは、「それがいいことなのか、悪いことなのかぼくには分からないんです。でもそれによって、意図しないところでおこなわれてきた承認のコミュニケーションに対する見直しがされるのではないかと思います。整理されることによって、より個人なものになる部分と生中継のような公開イベントをみんなで共有していく部分と二極化していくでしょう」と語った。
ビデオ・オン・デマンドにおける制作者側から見た映像分野の変更点はどういったものなのだろう。
「ひとつはYoutube、Vimeoなどの動画共有サイトがフルHD/4KHD*の、より高度な画質での再生対応になりました。ふたつ目はそれに合わせてトランスコード*を自動化しているということです。これにより昔のようにそれぞれのストリーミングメディアに合わせた素材をつくる必要がなくなりました。そして最後に、地デジ以上の解像度をもつディスプレイが登場してきたということがあげられます」
送信する映像はこうした環境に合わせて、可能なかぎり高画質なものをアップしておいたほうがいいとのことだ。
再生するやり方がより視聴者にゆだねられることも、つくり手に意識の変転を求める。
「いまは再生スライダー*の下にサムネイルが表示されて、どこに飛んだらどんな画面になるか分かるようになっています。あれは押しちゃいますよね(笑)。3分の動画を1分間で見ようとしてしまう。ところが、それをやられると制作者サイドが、ちゃんと順序を追って説明していた内容が伝わらなくなるんです。すると、つくる側は短いネタの積み重ねにならざるをえません」
今後は、映像でしか説明できないことは映像でおこない、それ以外はテキストでも写真でも伝わるのだったらメディアは問わない、というフレキシブルな形にする必要が出てくる、と岩沢さんは考える。そのなかでも、彼が特に注目しているのはテキストによるコミュニケーションだ。
「結局、Twitterであってもニコニコ動画のコメントに関しても、Youtubeでタグ付けをする行為にしても、すべてテキストなんですよ。タイトルだってテキストを書かないと検索に引っかからない。これが新しいメディアのアーカイブ方法なんだよって、テキストを書ける人はもうちょっと映像業界に対してプレゼンテーションをかけていくべきですね。編集技術だったり、しっかりとした言葉の使いかたを組み込むと、動画の再生数や評価はゆっくり伸びていく。テキストのコミュニケーションのつくりかたで5年から10年先まで、ちゃんと見てもらえるものができると思いますよ」
アバンギャルドなルックスを持つ岩沢さんの頭のなかでは、いまもメディアの距離感をデザインするための新たなアイディアが次々に産声をあげている。
有限会社バッタ☆ネイション取締役。1978年千葉県生まれ。学生時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事をスタート。卒業後、有限会社バッタネイションを設立。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、テレビ*ラジオ番組公式サイトの作成などを手がける。2008年からCET(CentralEastTokyo)エリアにオフィス兼イベントスペース「Co-Net」を開設し、USTREAMER養成講座をはじめとするイベントの開催や配信を行う。2010年には「USTREAMビジネス応用ハンドブック 最新200事例から成功の秘訣を学ぶ」を共著にて出版。映像だけに留まらず、インテリアの企画やショップコンセプトの立案など、幅広い分野での活動をしている。Rent:A*Carという音楽ユニットでのパフォーマンスも精力的に行っている。