表現財のパッケージャー:テックデザインが主催する、新しい働き方を模索・議論するセミナー... 続きを読む >>
好きな物事は仕事にできるのか?
“理想と現実”という言葉で古くから語られるこの命題に、少しずつ変化が訪れている。いままで経験のないインターネットショップをわずか1ヶ月で構築しオープンさせて1年。仕入れから販売まで個人で行うゲストスピーカー川原直実さんが、その可能性を大きく感じさせてくれた第6回のEAT Café。ソーシャルネットワークを武器に、自分の好きなものを売っていくことを実現させた彼女から語られるストーリーは、これからの商売の新しい指標になるのかもしれない。
ガールズナンバーワンデパート『Fabfive(ファブファイブ)』:http://fabfivetokyo.com/
「好きな洋服のテイストが自分で自覚できているし、その服が好きな人たちのことを見つけられる方法を自分は知っているんじゃないかと思いました」川原さんの運営するWebショップ『Fabfive(ファブファイブ)』は2011年にオープンしてちょうど一年。大学を卒業後、Webデザイナーやアートディレクターといったさまざまな仕事を経験し、いまに至る彼女はどのような想いでお店を始めたのだろう。
「いまから4、5年前にネットショッピングの魅力に取り憑かれました。夜な夜なアメリカやイギリス、スウェーデンやドイツなど、いろいろな国のネットショップをさまよって物を買うということに夢中になったんです」はるか遠く離れた地から手に入れた洋服を着て友達に会っていると“ねえ、それどこで売ってるの?”と聞かれることもしばしばあったという。
その後、いろいろな企業で仕事をするうちに、イーコマースのサイトの立ち上げにクリエイティブディレクターとして参加する機会があったそうだ。茶器などの日本の伝統工芸品をセレクトし、海外に販売するこのサイトで、川原さんは壁を感じたという。自分もほとんど使うことが無いような伝統工芸品や、高価な嗜好品を訴求することに違和感を感じたそうだ。数ある商品の中から自分たちがセレクトしてきたものを自信を持ってカスタマーにプレゼン出来ているのかと問われると、川原さん自身は雲をつかむような感覚が離れなかったという。「売り手である自分が正直、モノの良さをわかっていない。さらには買い手がなにを欲しているかもぼんやりしている。いま思うとこれでは難しいですよね。
とにかく認知させなければ、と広告を大々的に出稿し続けた戦略も、いまとなっては良い経験だという。「このとき、ショップのFacebookページのファン数も10万人に達していました。ところが実際に購買につながる数は伸びなかったんです。結局、『いいね!』を広く拾いすぎてターゲティングがうまくできていなかったのだと思います。」
『売り手が自分たちの商材に対し、情熱や知識が十分でないものは、お客様にも伝わらない。』『買い手がどういう人かを知ることがいかに重要か。』この2つの経験が、この先のビジネスのビジョンに大きく影響を与えたようだ。
これまでのデザイナーとしての経験と、イーコマースの具体的な仕組みを学んだことが彼女に火をつけた。「私が興味があって情熱を存分に傾けることができるファッション分野でやってみたらどうだろう?と甘い気持ちがジワジワ出てきたんです」思い立ったが吉日、2泊4日の弾丸ツアーでNYに買い付けへ。
「とにかく商品を100点集めよう。集まったら自分ですぐにショップを立ち上げよう」と彼女が考えたのは昨年2011年の11月末だったという。目標通り100点の商品を手に入れて、帰国するとすぐに自分でサイトを作成し、友達に写真撮影を頼み、わずか1カ月で現在のお店『Fabfive』をオープンさせる。
スタートしてからは、ソーシャルメディアを最大限に活用することに力を注ぎ、お店のフォロワーとなってくれる人達のスタイリングや好きなもの、趣味などを徹底的に調査し、彼らが望んでいるアイテムを絞り込んで展開することを心がけたという。いまではFacebookのファン数も6,400人を超え、Facebookはもちろん、Twitter、インスタグラム、ブログ、メルマガなどでこまめに交流を続けている。
『Fabfive』のなかには街のショップでは出会えないような、派手な形や色のアイテムが数多く並べられている。「セレクトがニッチでありターゲティングがしっかりできていること、ネットの価格競争から外れることで、ショップの世界観を明確に確立することができたと思います。だから今は実店舗を構えたいという気持ちもありません。商品のセレクトが、インパクトが強く万人ウケしないので、おそらく通りすがりの人は入ってきませんから(笑)」
売っていくものの特性を把握する、それがお客様にとってどんなメリットがあるのかを考える…。会社で徹底的に叩き込まれるこうしたQC(クォリティコントロール)を、彼女はナチュラルに実践している。
ソーシャルネットワークという新しいつながりかたは、かつて企業が大きな予算を省いていて行っていたことを個人で可能にしたのかもしれない。
現在、『Fabfive』は順調に取引先を増やし、オリジナルブランドも計画中だ。「いまの客層は20代から30代くらい。これから先、自分のセンスが通じなくなっていくという恐れはあります。この先、お客様と一緒にボトムアップしていくのが理想だとは思っていますが、まだ模索中です。」
このストーリーは、偶然に成功した夢物語なのか。“プロフェッショナルであること”とはどういった姿勢を示すのか。セッションはこの部分に焦点を当てて進められた。商売という視点から考えると、自分とまったく違ったテイストも取り入れつつ、バイヤーとしての目利きを育て、愛するお客様とコミュニケーションすることが大事では?という意見や、逆に好きなことをやりました、というコアな部分をより堅固に守っていくべきではないかという言葉も飛び出した。
オープンから1年、常識を振り切ってすばやく行動し、前向きに捉える姿勢こそが、彼女の触れる事柄を“偶然”のように見せているのかもしれない。最後に、なぜショップの名前が『Fabfive』というのか、彼女の言葉で締めくくりたいと思う。
「fabulous(ファビュラス)という言葉が好きで使いたかった。それに好きな数字の5(ファイブ)を組み合わせてお店の名前にしたんです。あとで知ったんですが、NBAのスーパープレイヤーが『Fab Five』と呼ばれていることに驚きました(笑)。お客様にはバスケやバスケットシューズが好きな人も多いのでお店の雰囲気をイメージしてもらいやすいし、海外の展示会に行ってもお店の名前を口にしたら、アメリカ人のウケが良くて取引を始めるいい“つかみ”になるんですよ」
2004年大学卒業後に、WEBデザイナーやアートディレクター、アパレルのインターンなどの経験を積み、2011年にWebショップ『Fabfive(ファブファイブ)』を立ち上げる。単独で海外へ出向き、独創性に富んだそのセレクトはソーシャルネットワークを通じて世界中に多くのファンをつくり、2013年1月現在、Facebookでは6,400人以上のファン数を誇っている。